映画と原作の主な違い


1.“ともだち”の正体はフクベエとカツマタの2人
 西暦2015年に正体がフクベエだった“ともだち”がヤマネに射殺された後にカツマタが整形でフクベエに成り済まして“ともだち”になったらしい。実質上の妻として一緒に所帯を持ち、フクベエの子供まで産んだキリコ自身が“復活”した方のフクベエ(“ともだち”2号)を似ているけどフクベエと違うと評している。最初からカツマタがフクベエを騙っていたと言う説(映画はこれをパクッたか)もあるが、もし、キリコの知るフクベエ“1号”がカツマタだったら、それと似ているけど違う“2号”は誰だろうということになる。だから“2号”が原作どおりカツマタだったら、“1号”は“2号”(カツマタ)と違う人物、すなわち矢張り一番無理の無いフクベエであるだろう。
カツマタ=”ともだち”の根拠はスケコマシ(ロンゲ)が“ともだち”からキリコの恋人諸星の殺害を委託される際に、「あんたこないだと同じ人?」と言っているのが真の“ともだち”=カツマタ説の根拠の一つになっている。しかし、飽くまで回想の中であり、実際に書かれたタイミングは完結直前の19巻で、最初はフクベエ一本槍だったからカツマタを“ともだち”にする発想は大分後に思いついたものだろう。“ともだち”をカツマタに切り替える、或いは2人にするとしても、それがフクベエ・カツマタの平行にするか、途中で入れ替わるならどのタイミングにするか最後まで決めかねた様子が見える。他に、「キリコの妊娠中に秘薬を投与したことで、自分の力がカンナに遺伝した」との趣旨を“ともだち”2号に言わせてカツマタが最初から“ともだち”だったとのアリバイ工作をしているがこれも手遅れの後出しジャンケンで返ってストリーの穴を増やすだけの結果に終わっている。兎に角、途中から“ともだち”をカツマタにしたくなったらしいが、当たり前の話だが、そんなキーワードを2つばかり挿入するだけの安易な話が通じる訳も無く物語をぶち壊しただけで物の見事に失敗している。そもそもそんな事は物語を書き始める前に考えるべき事である。
結論として数多くの矛盾の中から一番矛盾の少ないのは矢張り、“ともだち”の正体は最初はフクベエ、2015年にヤマネに射殺された後(オッチョが死亡を確認している)、カツマタがそれに入れ替わった、とするのが破綻が最小限で済むだろう。読者の議論でもこれが主流に見える。

2.キリコがケンヂの命を救う
 原作では、母チヨがケンヂを妊娠し、経済的苦境から堕胎を検討したがキリコの反対で救われるが映画ではその様なエピソードは無いようである。(無用ならこんな重い話は最初から入れるべきでない)

3.キリコの最終学歴は高卒である。
 国立大学を受験する予定だったが、ケンヂがオートバイ事故を起こして骨折し、キリコは入院中のケンヂに付き添うために受験を諦めた(無理すぎるし無用な設定)。私立大学の受験には成功したが経済的理由のために進学を諦めた。後日唐突にカンナが鳴浜の研究所址でキリコの「ガインデ大学病院レジデント終了の証」を見付けるので医師の資格を持っていることになるが取得時期、どのような資金源をどのような経緯で得たか説明は無い。

4.キリコはモテモテ
 小学校時代のヤマネは学校で飼っている魚に「キリコ」と名付けている。高(中?)校生のキリコが公園で読書中にフクベエ、ヤマネ、サダキヨ、カツマタ(後の2名はお面をして表情は分からないが)の半ズボン小学生グループから怪しげなニヤニヤ笑いの視線を送られ、キリコが嫌がっている。大分年下のガキたちまでキリコに興味を持っているらしい。かと思うと、高校生ぐらいの時に、ケンヂにやるために好きでもない先輩とデート(多分一度だけ)しただけで電気ギターを貰えたり年上にもモテている。結局そのギターはケンヂがロックの道に進むスタートになった。

5.キリコは“ともだち”(フクベエ)と内縁関係
 原作でのキリコはフクベエと生活を共にし、フクベエを「あなた」と呼び、女中には「奥様」と呼ばれている。しかし、キリコの失踪後に実家から捜索願も出され(入籍したらチヨの戸籍から除外される筈なので分かるはず)、カンナの姓が”遠藤”でもあるし、“ともだち”(フクベエ)が自ら明かすまでカンナの父親が誰かも判らなかったことからもフクベエとキリコ・カンナの戸籍上の関わりは無く、従ってキリコとフクベエが正式な婚姻関係にあったとは考えられない。フクベエとキリコのの関係は内縁でカンナは非嫡出子・私生児だったのだろう。

6.キリコはケンヂを溺愛する
 国立大学受験放棄の問題とか、ケンヂにギターを与えるために好きでも無い先輩とデートしたり、ケンヂが小さい時にも、ある程度大きくなった(幼稚園ぐらい?)ケンヂをオンブして歩いたり、一緒に映画を見に行ってお茶をしてのデートまがいやそのブラコン振りは普通のレベルでは無い。ただ、ケンヂの堕胎反対当時のキリコはあまりに幼く、これはケンヂへの溺愛とは呼び難いかもしれない。

7.ロンゲのスケコマシが不在
 敷島教授の娘をたらし込んで“ともだち”に引き込んだのも、諸星を殺害したのも、フクベエがキリコを口説く指南をしたのも、“関所”の管理者もロンゲのスケコマシだったが、映画では登場して無いらしい。

8.“爆発”からケンヂの再登場までは一切説明が無い
 原作では“爆発”からケンヂは一切登場せず、いきなり“関所”に現れる。その間の説明は「記憶喪失になっていた」、「北海道に居た」と二言があるだけでそれ以外は一切無い。

9.カンナの超能力の源泉は秘薬
 原作ではカンナが超能力を持つ理由として、キリコが妊娠中に“秘薬”を投与されたと言う描写がある。ただし、“ともだち”の一言の呟きだけなので、本当にその様な事実があったのか、その様な奇跡の薬品が実在したのか、投与はされても本当にそれがカンナが超能力を得た本当の理由か、どのような由来のどんな薬品で、どのような効果があり、どのようにキリコに投与し、何故医師であるキリコがそれに気付かなかったか、効果があるなら何故それを他の人間に使わないのか一切説明が無い。原作者の何時もの得意技である“暗示”だが遣りっ放しでフォローが無いのでフラストレーションの原因となる。

他にも沢山あるようだが面倒くさいからこれくらいにしておく。

20世紀少年(原作)の問題点

 20世紀少年はその非合理性にしらけてストーリーを受け入れられないが、アトムでも鉄人28号でも当時の子供の自分の知恵でも技術的に納得行かない点は多い。しかし、当時も今もこれらを作品として楽しめるし受け入れることも出来るが、何故だろうか。私がこの作品を評価できない理由は矢張り物語として成り立っていないという点だろう。その他の作品に技術的問題あるいはストーリー上の不整合性が存在しても、それは「こういう事になっているのです。決め事なんです」と云う風に明快に見えるものが殆どで、こちらも「はい、了解。漫画ですからOKですよ」と云う風に受け入れられる。しかし、20世紀少年は謎の殆どが“暗示”で「どうとでもとれる」と云う不明瞭な形で、更にその上、物語が終わってもその裏にある意味の説明も無く、結局曖昧で“意味の無い(不明ではない)カット”のままに放棄されている。それと夫々のエピソードの殆どが途中で放棄されているし、物語が終了しても何の説明も無く放棄されたままになっている。“信者”の人達は私がその裏に有る深い意味を理解できないだけだとすると思うが、であれば誰かが「これこそがそうだ」と云う整合性が有り、完結したストーリーを全部説明して頂きたい。否、完結はしなくても良い。物語を「完結させない」理由あるいは意味を説明できるのならそれで十分である。原作が終了してから何年も経過しているが未だに“信者”の間でも解釈が百出して纏まらないのは矢張り、「元々筋がなかった」と言う事だろう。要するに私は大儲けのために読者を玩具にした作者が許せないのではないだろうか。
 この物語の問題は次の3点の欠如に集約している。・・・
1)伏線・謎掛け放棄によるストーリーの完結性の欠如
2)伏線間・エピソード間の整合性・一貫性の欠如
3)ストーリーと登場人物の行動(性格)の合理性の欠如(科学性の欠如もこれに含む)
・・・となるが、これを一言で表せば論理的破綻の一言に置き換えることもできる。
(少なくとも、誰か、世界的組織“ともだち”が世界一タフでテロに敏感な国の米国国内でテロを起こしてまで拉致・逮捕したキリコやケロヨンが後日自由にケロヨンのコミューンでワクチン開発など出来たか説明してよ)

キリコの人格に関わる矛盾点

 本物語におけるキリコの役割は大変重要で物語のキー・ファクターは全部彼女に結び付いており、最重要キャラクターと云える。物語に与えた影響は主人公のケンヂ以上であり、敵役フクベエと双璧を成す事実上の主役と云える。準主役と云えるカンナの母親であり、物語の主旋律をなす病原体のワクチンを産み出した“聖母”でもあり、ケンヂを突き動かした原動力の一部でもある。最も重要な役割は自らの命を賭して“ともだち”に対抗し、最終的に”しんよげんの書”の野望を打ち砕いたのもキリコの活躍に負う所が大きい点だろう。20世紀少年はキリコから始まりキリコに終わったと言っても過言ではないぐらいだ。
 そのキリコの人格は物語の中の行動が矛盾して支離滅裂で破綻している。聡明でしっかり者かと思うと40歳を過ぎるまで嫁にも行かず、その歳になってやっと出来た恋人のプロポーズも家業のために断わったり、かと思うとその(元)恋人の“事故死”直後に現れた怖ろしいほど存在感が希薄な設定の弟のクラスメートに恋をして家族にも秘密で交際し、忽然と失踪し、その男の許に走り、入籍もせずに同棲し、非嫡出子を産んでしまう。しかもその私生児を捨てるように親と弟に預け、子供の父親も明かさず、戸籍も明かさずに又も蒸発してしまう。その後も子供の安否を確かめることも連絡も一切無く、最終的には成人した子供の方からキリコを探し出して訪ねるって云う在り得ないストーリーになっている。しかも、高卒のはずだが、何時の間にか医師になっていて、しかもワクチン開発まで出来る微生物学者としての面も持ち合わせている。

キリコの疑問点

 元々矛盾と不整合、不自然かつ非合理的な筋立ての20世紀少年だが、キリコのエピソードには特に問題が多く、ストーリー全体に亘る度重なる矛盾と不整合のしわ寄せを全部キリコに負わせているのではないかと思えるぐらいだ。ストーリーの中で必要になった時だけ登場して、用事が済むと蒸発して次の出番にまた忽然と姿を現し、用事が済めばまた消えると云う何か便利な道具か装置のような感じだ。しかもその仕事が夫々一貫性を欠いていて多重人格のような行動をとるので一人のキャラクターとして成り立っていないし、時間的にタイムマシンでも使わなければ成り立たないような不思議な時間軸でもある。

1.先ず基本的な問題としてキリコは一体何歳か?
・ケンヂ堕胎検討時の「母親になる」宣言を見ると話の内容と見た目からして当時4・5歳ぐらいと思われるのでケンヂ誕生時には5・6歳ぐらいだろう。従って、本当のキリコの歴史の始まりと云えるフクベエとの出逢いは40歳を超えるぐらいの時と思われる。
◎必要な説明:キリコの年齢の確定

2.なぜフクベエはあんなに(委託殺人を含む大仕掛け)までしてキリコを取り込むことに執着したのか?その目的は?
・”聖母”と”運命の子”の母親として必要としていたのだろうことは想像に難くないが、なぜにそれがキリコである必要があったのか?子供の頃に書いた“しんよげんの書”に“聖母”と“運命の子”の母親がキリコであるとの細かい記述まであったか疑問だ。しかし、少年フクベエの思い込みや同級生グループの仲間達との会話の中で「“聖母”と“運命の子”の母親はキリコさんが良い」などとあったかもしれない。更に、フクベエが思春期を経て成長するにつれてキリコへの執着と妄想が肥大化していった可能性もあるが、周りに他に幾らでも女の子は居たはずなのに何故に小学校でも殆ど重ならないぐらい世代が違う年上のキリコになったのか?たまたまは許されないだろう。もしくはキリコを好きだったので、先ずキリコありきで後から“聖母”と“運命の子”の母と云う役割を思いついたのかもしれない。その解明も必要だが、その鍵はケンヂの姉であると云う点にあるかもしれない。
◎必要な説明:“聖母”と“運命の子”の母親=キリコの必然性
・また、何時の時点から“聖母”+“運命の子”の母=キリコと決まったのだろうか。子供の遊びであった“しんよげんの書”が“現実の計画目標”に替わった時点と関係しているかもしれないが、それは子供が大人に切り替わる時期と重なるのではないか。あるいはフクベエが小学生の頃からキリコを好きだったとしても“生の女”としてキリコに強い興味と妄想を持ち始めるのも同じく思春期からではないだろうか。フラッシュバックと云う形でも良いから、音楽活動以外にも少しはケンヂ、フクベエたちの思春期、青春期の記述が在っても良かったのではないだろうか。思春期の精神面の変化が、子供の自分を子供の世界に置いて成長するか大人の世界まで引き摺るかの境目ではないだろうか。それこそが20世紀少年のテーマそのものではないか・・・ただ、云える事はいくら早々からキリコを“聖母”に決めてもキリコがワクチン開発を出来るほどの研究者になれる保証は全く無いので、本当の意味でキリコを“聖母”に仕立てる計画はキリコが成人になって微生物学の分野で相当の力を付けてからの話だろう。だからこそ“高卒”はありえない。また、“運命の子”の母親に関しても解決できない問題がある。フクベエがキリコの恋人を殺し、キリコに初めて接近するのがキリコが40歳を超えてからと思える。魅力的と思える(デートしただけで電気ギターを貰えたり、フクベエ一派などずっと年下の子供まで魅了されている)女性がこの年齢まで独身を通すと云う事は確率的に低いのでフクベエがいくら計画してもキリコがそれ以前に人妻になったり、子供が居たりする可能性の方が大きい。であれば、フクベエがキリコを“運命の子”の母親にすると具体的に決めた時点はキリコが“運命の子”の母親になる条件を持つと最終的に確認できた時点で、諸星殺害のそれほど前では無いだろう。なぜならば決定後に間を置いたらキリコが結婚する可能性は大きくなる、決定=直ぐに諸星殺害・キリコに接近着手、となる筈だ。
要するに決定時期は、纏めてみると次の両方の条件を満たした後で、諸星殺害の直前の時点ということになる。
1)“聖母”に関しては、キリコが微生物学者としての高い能力をつけた後
2)“運命の子”の母親に関しては、キリコが独身と確認できた後すぐ
従って、考えられるのは遅い方の時点と思われる2)の諸星殺害少し前にフクベエはキリコを“聖母”および“運命の子”の母親にすると決定して接近を始めたのだろう。つまりフクベエ一派が子供の頃に示したキリコへの関心は実際上、“聖母”にも“運命の子”の母親にも直接は関係の無い子供の妄想だったと捉えるべきである。25年近く経ってからフクベエはキリコが独身でしかも微生物学者であると知って小学校時代の焼けぼっくいに火が着いたということだろう。だから、当初の予定では“聖母”も“運命の子”の母親も別の女性が候補だった、あるいはキリコが“独身”で“微生物学者”であったことを知り、初めて“聖母”とか“運命の子”などと言うものを発案したのだろう。もう一つ別の問題として、魅力的と思われるキリコが40歳を超えるまで独身を通したのも不自然なのでその理由も必要だろう。
◎必要な説明:1)“聖母”と“運命の子”の母親=キリコが決まった時期。2)キリコが40過ぎまで独身だった必然性。
・フクベエが純粋にキリコをワクチン開発者(聖母)として欲しがっていたと云う事は無いだろう。研究者が欲しいだけならもっと楽で効率的な手段があるはずだし、“聖母”の役割を求めるにしても、そもそも高卒の学歴しかないキリコにワクチン開発は無理がある。無理矢理に後付でキリコがアフリカで医師資格を取得した事にしているが色々とキリコの歴史に変更を加えない限り不可能で返って不自然さを深めている。その可能性の低いキリコを最初から“聖母”として期待するというのは合理性が低いのではないか。寧ろ別の人間が開発したワクチンの名目上の“聖母”とする方が現実的だがそれでは物語にならない。そもそもフクベエはキリコに接近する前から“聖母”=キリコと決めていたのだろうか。でなければキリコである必要は無く、既存の女性研究者を雇い入れて“聖母”とすれば良いだけの話である。従って、フクベエにとってキリコは“女”(“運命の子”の母)ありきで“ワクチン開発者”(“聖母”)は特にキリコである必要は無かったと云う事ではないか。可能性としては、キリコを“運命の子”の母親(自分の女、自分の子を産ませる女)としてどうしても欲しかったから取り込んだが、釣上げる餌として利用した研究もキリコが意外と優秀で思いのほか進んだので、要するに遣らせてみたら出来たから、“聖母”にもしたと云う事かも知れない。それよりキリコは高卒ではなく、当初から“聖母”を期待できる専門性を十分に持つ研究者ぐらいにした方が良かっただろう。それなら当初から“聖母”+“運命の子”の母=キリコの計画が有ったとの説明がつく。
◎必要な説明:キリコが“聖母”と“運命の子”の母親とされた経緯。
・上記の如くフクベエは研究者としてのキリコ以上に“女”としてキリコを欲しかったのだろうと思えるが、要するに“研究者”(聖母)と“女”(運命の子の母)との優先順位は先ず“女”ありきで次に“研究者”ではないか。フクベエがキリコを手中にする過程で“スケコマシ”の指導があるが、これは恋愛の(女としての)面でキリコを取り込むためだろう。研究者に比重があるのなら研究者に対するアプローチの方が効果的なはずだし対象がキリコである必要もない。つまり、女性微生物学者は世の中に多数存在するので“聖母”としてキリコである必要は無いが“キリコと云う女”はキリコ以外に存在しないのでキリコでなければならない。ただし、40歳過ぎまで一人身を通したキリコを口説き落とすのは簡単ではないだろうし、一度失敗したらやり直しは利かないから、より安全確実な道としてキリコの夢である微生物学の研究を餌にして接近の突破口とする戦術を採ったと云う可能性は高い。フクベエは喫茶店での会話の中でキリコに「いつまでも悲しんでいては前に進めませんよ。人間はなりたいものに成れるんだ。今からでも遅くない。あなたの志を眠らせてはいけない」と発破をかけている。この女を口説く言葉とは思えない、「なりたいものに成れる」とか「志」とは“研究者”と“研究”を示しているのではないか。これがフクベエによるキリコへのアプローチのヒントになる。
◎必要な説明:キリコがフクベエに取り込まれるプロセス。
・ではなぜ“運命の子”の母親としてキリコの“女”を欲しかったのだろうか。真っ先に彼氏の諸星を殺したりしているから、キリコに接近する前から“運命の子”の母(自分の女)=キリコと決めていた筈だ。何故そこまで“行かず後家”のキリコに執着したかも描く必要がある。フクベエにとってキリコは“女”として他に替え難い魅力が有ったのではないか?“聖母(研究者)”のことまで考えると必要条件は、“健康と知性”も必要だが女としての魅力はそれに加えて普通は“容姿と性格”、更に所謂“女らしさ”と云うべき一般的な女性としての属性だが、他に無い特別な条件として“ケンヂの姉”であることは“自分の女”にする上で替え難い魅力になったのではないか。
◎必要な説明:フクベエがキリコに魅了された理由。
・少女時代にずっと年下のフクベエグループの男子達に興味を持たれたり、高校(ケンヂとの年齢差から既に卒業している筈だが)時代に先輩とデートしただけで電気ギターを貰えたり、元々キリコには女性として際立った魅力(子供だから多分容貌の点)が有ると思われるが、40歳過ぎてまで酒屋の店番をして“行かず後家”のキリコに女としての魅力がどれほど残っていたか疑問だ。何が魅力だったのか?そもそもキリコと弟ケンヂ同級生世代の年齢設定に無理があるのでは無いか。もう少し若ければキリコの美貌に説得性もあるし、メインキャラが“血の大晦日”の時点で年をとり過ぎていることもない。寧ろ西暦2000年が“ともだち”暦元年になるぐらいの時間軸にした方が良かったのではないだろうか。それで若くなり過ぎるなら何年か皆の誕生日を早めて調整しても特に問題は無いだろう。先々考えないで派手なイベントをミレニアムにぶっつけたんだろなぁ・・・安易だなぁ・・・堪え性が無いなぁ。何等かの手段でメインキャラの年齢を下げる工夫をする必要が有るだろう。
◎必要な説明:中年キリコの高すぎる年齢への対応。
・矢張りフクベエのキリコへの執着は子供時代からだろうか。少なくとも公園で「ミジンコの本(サダキヨ以外は何の本だか知らない筈)」を読書中の高(中?)校生のキリコに半ズボン小学生のフクベエ一派が怪しげな視線とニヤニヤ笑いを送ってキリコに嫌がられているが、その頃からキリコは彼らにとって特別な存在だったのだろう。ヤマネなどは学校で飼っているクマノミを“キリコ”とさえ呼んでいた。でも、何故キリコなのか?考えられる事はキリコはそれほどの魅力的(おそらく容姿が)な女子で、年がずっと下の男子達まで憧れるほどだった(ヤマネのクマノミを考えるとこれはあるだろう)。それに加えて“ライバル”ケンヂの姉と云うことは大きなポイントだろう。仮にもケンヂの上位に当たる姉のキリコを自分の“女”にしてケンヂの代理として支配し屈服させるのはフクベエにとって大きな意味があるのではないか。そんな憧れとコンプレックスが混ざり合ったフクベエの想いが思春期を経て、“しんよげんの書”の妄想と共にキリコへの想いも肥大化して歪んだ激しい執念に変化した可能性は高い。フクベエはそんな特別な女を“自分の女”にして所有し、更に“運命の子の母”として自分の子供を産ませたかったのだろう。また、公園でフクベエ達はサダキヨからキリコが読んでいる本のタイトルを聞いて彼女が生物学を好きだということを知り“聖母”を連想した事も有るのかもしれない。
◎必要な説明:フクベエのキリコに対する執念の質と強さ(なんと言っても殺人まで犯している)。

3.なぜ、キリコはフクベエに取り込まれたのか
では、何故キリコはフクベエの女になったのか。女としての魅力に溢れたキリコが何故によりによってはるかに年下で男として特に魅力が有ったとも思えないフクベエの女になったのかキリコ側の事情はどうか。
・高年齢という点を除けば、上記の通りにキリコ自身、女としての魅力を豊に持っていたと思われる点が多々あり、更に恋人のプロポーズまで断わったキリコが、クラス会でも直ぐに名前が出てこないほど影の薄い、男として魅力があったと思えない年の離れた弟の同級生に易々と口説かれて恋に落ちるのは合理性に欠ける。因みに、フクベエが恋愛の道に未熟だったことも原作で“スケコマシ”の心配を通して示唆されているので女を落とす手練手管も有したと思えない。では、キリコがフクベエに強く惹かれる合理的な理由が特別になければならない。それは何か。
◎必要な説明:キリコの女としての実力“女力”とフクベエの男としての実力“男力”の描写。
・ズバリ“研究”だろう。キリコが微生物学に興味を持っていたことは原作の中で示唆されている。後に“聖母”となった事も考えて、キリコが微生物学の世界に身を置いていた事は疑いが無い。しかし、フクベエと出逢った当時40歳を超えても酒屋の店番をしていると云う事は既に学研の世界から離れて居る事になる。が、ワクチン開発を出来るほどの力量を持っているキリコが微生物学の世界に大きな未練を持っていたとしても不思議は無い。フクベエは研究の場を提示してそれを餌にしてキリコの興味を惹いたのではないか。前記、疑問2で言及したようにフクベエは口説き文句で「いつまでも悲しんでいては前に進めませんよ。人間はなりたいものに成れるんだ。今からでも遅くない。あなたの志を眠らせてはいけない」とキリコに言っている。「なりたいものに成れる」とか「志」とは“研究者”と“研究”を示していると思われる。キリコがフクベエに興味を惹かれる理由が“研究の機会”であり、フクベエの“男”と関係が無いのなら、彼の存在感の薄さは返って接近するのに都合が良いだろう。男女の関係はキリコがフクベエに依存を強めた後に時間をかけて築けば良い。
◎必要な説明:キリコが男として魅力も無いと思えるフクベエに唐突に興味を持った理由。
・ただ、大きな問題が残る。前記、疑問1の如く高卒のキリコにそのような本格的な力量が微生物学に関してあったのだろうか。しかも、年齢が40歳を超えるぐらいになると思われるので最終学歴である高校卒業から20年以上経っていることになるので、専門性が高く技術革新の早い分野で今更研究を再開するというのは考えられない。矢張り高卒と高齢という設定が間違っているのだろう。
◎必要な説明:高卒で最終学歴から20年以上経つキリコが微生物学という難しい分野に研究者として入れる理由。

4.なぜキリコは家族にフクベエとの交際を知らせなかったか、また、後日失踪の形をとったのか=>家族との絶縁状態を納得したい。
・家族が全く2人の関係に気付かず、最後には蒸発と云う形で秘密のままになったと云う事は2人の出逢いと交際が始まった当初から意図的に秘密にしていたと考えるべきだ。しかし、フクベエ側の理由は明白だが、キリコ側の理由は何か?聡明なキリコだが一種の洗脳状態にされたのか?キリコは一途な性格だから一旦相手を信頼するとトコトン嵌りそう。ただ、洗脳に至る妥当性は必要だ。それに、明らかに“ともだち”の洗脳は受けていない(“ともだち”の存在を知ったら直ぐに逃げ出した)。どちらかと云うとフクベエと云う男にキリコと云う女が騙されている感じだ。他にも、キリコにとっても2人の関係は公にしたくない類の関係だったと云う事情があった可能性も考えられる。
◎必要な説明:キリコが家族にフクベエとの付き合いを秘密にした理由。
・しかし何故に出逢いの初めの初めから秘密にしたのか?しかも仮に交際の始まりが“研究”の話だったとすれば秘密にするのは更に不自然で合理性に欠ける。それに、秘密にするだけではなく蒸発までするには別途その理由が必要だ。
◎必要な説明:キリコが秘密でもない筈のフクベエとの“出逢い”さえ家族に秘密にした理由。

5.なぜキリコはフクベエとの結婚(女中に奥様と呼ばれている)を家族に告げず、式も挙げたなら家族を呼ばなかったのか、招待者は新郎側だけでキリコは疑問に思わなかったのか、式を挙げなかったとしたらキリコは疑問に思わなかったのか、なぜカンナの誕生(特に母には初孫)も知らせなかったか。=>またまた家族との絶縁状態の必然はどうか。上記の疑問4の問題と一緒に扱って良いだろう。
・そもそも正式に結婚していないのでは=>丸め込まれた?キリコの家族に対するフクベエとの関係への後ろめたさが感じられる。要するに表向きにはフクベエの妻でも事実は家族に報告できるような関係ではなかったのではないか。特に、キリコ失踪直後に行方不明として警察に捜索願が出されているが仮に婚姻による戸籍の異動があれば直ぐに分かるはずだ。更に、自動的に相手がフクベエであることも分かってしまう。戸籍に異動が無いと云う事は入籍していないのだろう。
◎必要な説明:キリコとフクベエの夫婦としての実態。
・事実、母チヨとケンヂがキリコの娘カンナを預かって育て、ケンヂの友人のユキジが親代わりになって高校へ通わせていたがカンナの父親が“ともだち”と知っていてもそれがフクベエだとは知らない。それさえも“ともだち”当人の自己申告だ。と云う事はカンナの戸籍上に父親は存在しないと云う事になる。従ってカンナは非嫡出子(私生児)となる。であれば、矢張りキリコとフクベエは婚姻関係に無かったと云う結論になる。
◎必要な説明:キリコとフクベエの婚姻上の関係。
・いずれにせよ、キリコは何らかの形でフクベエに精神的に支配されて(騙されて)いるがその原因は何か。原作で暗示されている通り、諸星の突然の死のショックと進路問題でフクベエに依存したことも有るが、一緒に所帯を持って更に子供まで産むのは恋愛感情を持つ必要があるだろう。事実、フクベエがキリコを手中にする過程で“スケコマシ”の指導があるが、これは恋愛の面でキリコを取り込むためとしか考えようが無い。また、カンナ出産直後にフクベエが付き添う病室のベッド上でキリコは実に幸せそうにフクベエを評して「まぁ、頼もしいパパね」とカンナに語りかけてもいる。キリコは明らかにフクベエに恋をして所帯を持ち、入籍もせず、非嫡出子・私生児を産みながらも、なお彼を“夫”として愛している、一種の結婚詐欺に遭ったと考えるのが最も妥当だろう。2人の関係の実態とそこに至った経緯を明確にする必要が有る。
◎必要な説明:キリコとフクベエの夫婦関係が現在の形、内縁になった経緯。キリコの事情、フクベエの事情。
・しかしこれには大きな謎が残る。仮にキリコが先輩から、更にフクベエ達のような年の離れた(5・6歳差と思われる)下級生にまで人気が有るほど魅力的な女性なら、何故40歳過ぎまで“行かず後家”だったか、にも拘らず突然それがクラス会で名前も出てこないほど目立たず、しかも弟の同級生でずっと後輩のフクベエに恋をして、入籍もせずに子供まで産んだのか相当に特殊な理由が必要だろう。その上、その子供も前述のように非嫡出子(私生児)であると思われる。恋人諸星の突然の死が生む“心の隙”だけではキリコのこの異常とも思える行動の理由として弱すぎる。作者がキャラクターを真剣に描かないからキャラクターがみんな一貫性の無い異常行動をとることになる。その尻拭い(理由付け)をせねばならぬ。
余談だが、キリコの場合は特に異常な精神状態を感じる。結局、筋立てを便利に飛ばすためにキリコが一種のクッションのように使われたからこの様な支離滅裂な人格になったのだろう。
1)物語の各所に見られるケンヂに対するキリコの異常な溺愛。
2)ずっと年下で、弟の同級生で、存在感も薄く、恋愛に未熟なフクベエ“のみ”に対する不思議な愛情。
・40歳過ぎまで一人身を通し続け、恋人のプロポーズまで却下したのにフクベエには極たやすく愛人になった。
・入籍もせず、
・私生児まで産んで、
・「頼もしいパパね」などと喜んでいる。
完全に合理性に欠ける。原作者の頭の中も非合理的なのだろう。
◎必要な説明:矛盾だらけで支離滅裂なキリコの行動に合理的な理由付けをして一つの人格として統合する。

6.キリコの女性としての人生は矛盾に満ちている。それを事実として受け入れるためにはその矛盾を解く鍵が必要だ。
・何故キリコは40歳前後になるまで独身を通したか?
・何故キリコは諸星のプロポーズを受け入れなかったのか?
・何故フクベエだけがキリコの愛を射止められたのか?
 前述の如くキリコは女性としての魅力を豊に持っていたと思われるが何故に40歳前後まで独身を通したのか、相手に恵まれなかったとは考え難い。更に良縁と云える諸星のプロポーズも却下している。キリコは何故に諸星のプロポーズを受け入れなかったのだろうか。比較的貧しい実家の酒屋を運営する40歳を超えるオールドミスの女性にとって彼は多くの意味で結婚相手として望外と云えるほどの良好な条件を揃えている。キリコには諸星だけに限らず結婚(男)を避ける彼女なりの何等かの特別な理由があったとしか考えられない。しかし、今まで男を受け入れず、恋人のプロポーズをも断わって更に彼が“不慮の事故死”したばかりにもかかわらず、その直後に上記の様にずっと年下で、小学校の後輩(の筈)で更に弟の同級生、その上に存在感も薄い(男としての魅力も無いだろう)と云う恋愛や結婚の対象としてのネガティブな条件ばかりを揃えたフクベエに唐突に恋をして、家族にもその関係を秘密にして、駆け落ちをし、入籍もせずに、認知されない子供(非嫡出子・私生児)を産んで、なおフクベエを愛し続けている。フクベエはキリコにとって余人には無い、しかも何もかも忘れて愛してしまうほどの魔力とも云える特別な魅力、あるいは前述したキリコにとっての“結婚(男)を避ける理由”を打ち消す何らかの特別な条件を備えていると考えるべきだろう。ここいら辺の謎はキリコの一生と、キリコとフクベエの関係、聖母誕生、カンナ誕生の経緯の鍵を握ると思われるので是非とも解明する必要が有る。
 先ず、フクベエにはキリコがどんな障害も忘れてしまうほど大きな魅力が有ったのではないかと云う疑問があるが原作にそれらしい記述は無い。実際、原作にはキリコがフクベエに恋をしたと云う描写さえ無い。必然的にそうなる筈だと推測するのみである。では、“魅力”では無いのなら、“結婚したく無い(男を避ける)原因を打ち消す何らかの特別な条件”をフクベエが備えていた可能性が高くなる。考えられるのはキリコには結婚適齢期前に男性に関するトラウマができた体験があり、それが障害となって男性と関わる事が出来なくなったが、フクベエだけには普通の男性は持っているそのトラウマに引っ掛かる何等かの条件が欠落していたのではないだろうか。
 要するにキリコが恋愛の対象として適すると思えない“フクベエだけ”を伴侶として選んだ特別な理由を考える必要が有る。女性としての魅力を十分に持っていると思えるキリコが40歳過ぎるまで独身を通したのは男性を受け入れられない過去のトラウマに起因するのか。ならばそのトラウマとはどんなものか。その原因は何か。そしてフクベエにはそのトラウマにつながる普通の男性は持ち合わせる“なにか”が欠落しているのか。
◎必要な説明:1)キリコが男(結婚)を避け続けて行かず後家になった理由、2)フクベエのみが持つと思えるキリコを惹き付ける特殊フェロモン。

7.カンナ出生の記録はどうなっているのか。戸籍を調べれば“ともだち”=>父親=>フクベエと正体を追える筈だ。これも出生届が出されれば戸籍に異動があり(仮に非嫡出子・私生児であっても子ができればキリコの独立した戸籍が出来てカンナも同じ戸籍に入り、チヨの戸籍にはキリコが除籍された記録は残る)、直ぐに分かるはずだ。と云う事はチヨの戸籍に異動がないならば、出生は届けられずカンナは無戸籍!?幾らなんでもこれはないだろう・・・キリコの蒸発・捜索願(第一こんな設定も必要ないジャン!)で戸籍の異動が引っ掛かる筈だがこの部分に無理があるのではないか(これに限らず作者は真面目に物語を考えていない、穴だらけ)。どうでも良い部分ならそれでも良いが、カンナの出生の秘密は物語の肝の一つだから好い加減にはしておけない。
・矢張りキリコとフクベエは正式に結婚しておらず、カンナも認知されなかった(非嫡出子でも出生届が出ればチヨの戸籍に影響が出る問題は残るが)と考えるのが合理的だ。キリコ同意の上かorまた洗脳か。
◎必要な説明:カンナが非嫡出子になった経緯。
・カンナの苗字は“遠藤”のままだ。と云う事は、矢張りカンナはキリコを戸主とした戸籍に入っていると理解すべきであり、カンナを育てた母チヨもケンヂも保護者だったユキジもカンナの父親を知らないという事実は戸籍上の父親の欄は空白であり、従ってキリコも服部(フクベエ)に入籍(結婚)していないと考えざるを得ない。要するに、キリコはフクベエと正式に結婚しておらず、カンナもフクベエに認知されずに非嫡出子(私生児)であると云うことだ。父親としてフクベエの記録が残ればカンナの父親=“ともだち”だから自ずと“ともだち”=フクベエと正体が割れる筈だ。フクベエによるキリコとカンナに対する非情な取り扱いの説明はどうしても必要だ。他に可能性の低いケースでは、キリコが服部に一旦入籍してから離婚して旧姓に戻った、或いはキリコはフクベエと婚姻関係のままカンナがチヨあるいはケンヂ他の遠藤姓の人物と養子縁組、あるいはフクベエが遠藤キリコの籍に入ると云うのもあるが、いずれのケースも戸籍の異動が伴うし、父親の記録は残るので無理すぎるだろう。この手の演出過剰の花火が筋立てに多くの穴を開けている。読者の興味を惹くのに目先だけの楽をした人口調味料大量投入的やり方のツケが後々の話をぶち壊している。
◎必要な説明:フクベエがカンナを認知しなかった事情。

8.なぜにキリコは娘カンナを母とケンヂに預ける際にそれまでの事情とカンナの父親に関して何も語らなかったのだろうか。
・何故キリコはケンヂと母にカンナを預ける際にカンナの父親が誰だかも告げずに赤ん坊だけを置いて逃げてしまったのだろうか。既にフクベエの許から逃げ出した後であり、私生児を抱えて実家に転がり込んで、その赤ん坊を無理やり押し付けて蒸発する所まできているのだから別に体裁を考えたり秘密にしたりする必要は無い筈だ。こうなったら何があったのかを全部話しても良い筈だし、キリコ本人の精神衛生上もその方が自然で合理的だろう。一時的に預けるつもりだったら後ほど改めて話をしても良いし、手紙も電話もある。完全に子供を放棄するつもりなら一番信頼しているはずの娘の預け先である親兄弟に事情を説明しないのは子供が成長した後のことも考えて有り得ないだろう。「ケンヂ御免ね。この子のパパはケンヂの同級生だった服部君なの」或いは「この子は認知されて無いから私の私生児って事になるけど、父親はこうこうこうして知り合った服部哲也と云うケンヂと同じ年の男性で昨晩まで何処そこで同棲してたの。最初は私達も愛し合ってたのだけど、こんな事情が・・・」と言えば、「オォ!そいつは俺の同級生のフクベエだ。あの野郎!俺の姉貴にふざけた真似しやがって」と即“ともだち”の正体が割れたはずだし、他の諸々を説明してもキリコにとって何等問題は無いはずだ。
◎必要な説明:カンナを母とケンヂに託す際に事情を説明しなかった合理的な理由。
・唯一考えられる可能性は家族がフクベエと“ともだち”の秘密を知ると家族にまで危険が及ぶ可能性があるとキリコが判断した場合だ。しかし、原作では“ともだち”の集会を初めて知った後、その脚でそのまま逃げているので“ともだち”の危険性をどこまで把握していたか疑問でもある。何れにせよ、謎を残したいのなら、話を途中で切って、肝心部分は後でフラッシュバックという手も使えた筈だ。それ以前に原作者のTVインタビューに依るとサスペンスや謎解きではないとの話だから無理に謎を作る必要も無いはずだし、「“ともだち”の正体は問題ではない」とのことなのでここまで無理して“ともだち”の正体を隠すのも理屈に合わない。原作者の単なる逃げ口上だろう。
◎必要な説明:キリコはフクベエの許から逃げ出す時点でどの程度まで“ともだち”の核心に迫っていたのか。
・カンナの父親に関して家族にも明かせない特別な事情があった。その他のキリコの知る諸々のことを秘密にした理由も別途必要だろう。その事情を考察する必要が有る。・・・作者はこんな無理してまで謎を作っておいて、読者の謎解きを否定するのか・・・要するに答えを考え無いで安易に客寄せ用の謎を書いているから追求されると困るんだろう

9.キリコは何時の時点で“ともだち”の危険性を察知したのだろうか。
・上記の如くキリコは“ともだち”の集会を初めて知った後、その脚でそのまま逃げて、娘カンナを母とケンヂに託してから警察に“ともだち”を資料付きで告発しているが何時の間にそこまで情報を集めたのだろうか。ここにも物語の不自然さが感じられる。
◎必要な説明:キリコが“ともだち”告発時の関連資料と情報を入手した経緯。
・“集会”を見ただけでは漠然とした恐怖を感じる事はあっても具体的な危険を知ることは不可能だろう。しかし、その後に間を置かずカンナを実家に預けて、直ぐに警察に資料付きで告発している。何時の時点で“ともだち”の真の姿を具体的に把握し、証拠となる資料を集めたのだろうか。無理があると思う。
・矢張り原作のような唐突な動きには派手さはあっても不自然さが伴う。普段からキリコはフクベエの行動に疑念を持ち、“集会”を目撃した後には逃亡を図る前に実態を調査してその危険性を十分に理解し、更に資料集めをして、その後に逃亡・告発と云う事にするべきだろう。

10.キリコは相手(フクベエ)が弟の同級生だと知っていたか=>可能性大
・同じ小学校(公立で近隣居住区)の後輩で実際子供の頃に公園でも見知っているし、日頃からすれ違っている顔見知りの可能性は高い。フクベエ・グループのサダキヨなどは顔も本名も知っている。それにフクベエと弟のケンヂはベッタリではないが一緒に遊んでもいた。後日だがキリコは「フクベエ」と小学校時代のニックネームを使ってもいた。更にキリコの共同研究者のヤマネもケンヂの同級生(キリコの後輩)だし、ヤマネも少なくとも公園で見知っているし、こいつも同じ地域の住民だ。また、学校で飼っている魚をキリコと呼んでいた程なので普段からキリコに近い所に居て、キリコもそれに気付いていた事は殆ど確実だ。大体一緒に所帯を持って子供までもうけるぐらいなら嫌でも相手のバックグラウンドをある程度知るだろうし顔を忘れていても思い出すだろう。無理して正体を隠せば破綻するまで嘘を重ねなければならないし、一旦嘘をつけば後戻りは出来ない。ならば途中で身分がバレると信頼感を損ねて下手をすると取り返しのつかない状況になるので最初のアプローチからフクベエはケンヂの同級生だった事をオープンにしていた可能性が高い。しっかり者のキリコが幾らなんでも見知らぬ男の接近を家族にも内緒であそこまで無防備に許すのも不自然だ。それに、後輩・弟の同級生の立場を利用する方が接近は容易だし、秘密は少ない方がリスクも少ないのでその方が合理的で自然な選択といえる。
◎必要な説明:フクベエとキリコの同窓生・地域住民としての関係。
・更に、もう一つの良い理由として、自分がケンヂの同級生であると言うことをキリコに明かにしておいた上で、援助を利用して信頼感を得ながら公言できないようないかがわしい男女関係に持ち込めば、キリコが、そのパトロンと愛人の関係を知って怒った弟ケンヂがフクベエに詰め寄って騒ぎになって2人の関係が壊れたりフクベエから提供された研究の機会が中断したりするのを恐れて2人の関係を秘密にすることを期待できる。一旦肉体関係を作ってしまえば研究の継続が人質になって“大切に扱ってさえやれば”キリコも研究のパトロンで恋人でもあるフクベエとの関係を壊す危険を冒してまで強引に結婚等の立場を迫ったり、居心地の良い現状を壊してまで騒ぐ事も出来ずに日陰のやましい関係を続けられるだろう。そうすれば前述の通りにキリコはフクベエの存在をケンヂと母に秘密にせざるを得なくなる。問題は“ふしだらな関係”に至る前の付き合い始めの段階を如何にして秘密にするかだ。公に出来る筈の“良いお付き合い程度”、「ねぇねぇ、今日ケンヂの友達の服部君に偶然会ったよ」とか「今度服部君と食事に行くんだよ」とか「私服部君と付き合おうと思ってるんだけど」とか言える関係をキリコが母チヨや元々異常と云えるほど姉弟仲の良い弟に秘密にするにはそれ相当の理由が必要である。その説明はなされねばならない。
ところで、脱線するが、ホントだったら最初からフクベエが自分でキリコにアプローチする事は無いだろう。もし最初の出逢いの日に、キリコが上手く引っ掛からなかったり、フクベエと逢ったことを喋ってしまったら計画が根本から狂うのでリスクが高すぎる。先ず最初は誰かケンヂが全く知らない、名前が出ても問題にならない人物(例のスケコマシが適任、勿論ヤマネは隠しておく)を介して研究を餌に友楼会研究所の研究員として“破格の条件”で採用してキリコを取り込み、ある程度研究が進んで抜き差しならぬ所まで来てから、事業主(パトロン・フクベエ)が細菌あるいはウィルス学者ヤマネを伴って研究の視察に来て「オォ!これはこれは遠藤さんでしょ!ケンヂ君のお姉さんの・・・ヘェ驚いたなぁ」で真打登場となるだろう。一番最初の採用時に業務上の守秘義務を課しておけば事業主に関しても含めて外部に秘密も守れる。好条件には宿舎として高級なアパートメントの提供も含むべきだ。そこまでキリコに依存させた後なら、頻繁に研究所へ顔を出すようにして口説くのも容易になるだろう。アパートメントはそのまま“妾宅”としても使える。私だったらそう云うストーリーにする。
◎必要な説明:フクベエとキリコが同窓であった意味。
・更に余談になるがもう一つのストーリーとして、キリコが身の周りの不幸な現実(生活苦、挫折感、自分か家族の健康上の問題、諸星の喪失感)をフクベエに利用されて“ともだち”に入信し、ウィルス・ワクチン研究者“聖母”となると共に教祖フクベエの御手付きとなり、教団の中で密かにカンナを産んだが出生を届けられる事もなく無戸籍となった。カンナは“運命の子”とされるが、その後、何らかの理由(ケンヂの想いが届き、例えばラジオで昔のケンヂの演奏が流れてそれを聴くとか)でキリコのマインド・コントロールが解けて逃亡に至ると云うストーリーの方がシンプルで破綻が無くシックリと収まりも良いかもしれない。ただし、この場合はキリコは諸星と結婚するつもりで式の日取りまで決まっていた。だからショックが一層大きかったとした方が良いだろう。元々なぜキリコが諸星のプロポーズを拒否する設定にしたか理由が解せない。“家業である酒屋の維持のため”と云うのは無理があるだろう。元々こんな設定は無用だろうが、少なくとも諸星に女癖とか、ギャンブル癖とか、特異な趣味・性癖とか結婚を躊躇したくなるような欠点を作っておけば説明もついたのに・・・一寸目先の変わったことをしたかったのだろうか。いつもの無意味な“思わせ振り”だろうか。とにかく肝心の所は書き込まずに書き易くても余計な所を弄り過ぎて物語り全体に破綻を招いている。でも、それを遣らなかったら何も残らないか・・・肝心な所は書いて無いから元々粗筋だけみたいで中身は貧弱だし・・・本体が無い分、尾ひれだけでも大袈裟にしないと・・・ん〜根本的に間違っとる。

11.殺人まで犯して我が物にしたキリコだがフクベエはどのようにキリコを考えていたのだろうか
前述の如くフクベエはキリコを“研究者”としてよりも“女”として欲しかったと思われる。ならば如何様な形で愛したのだろうか。
・少女時分からキリコは男子達に人気があって少年フクベエもキリコを好きだった節もあるが矢張りケンヂに対する対抗心と嫉妬心もそれに輪をかけていただろうことは考えられる。ただ、それが中年の男女(フクベエ35歳ぐらい、キリコ40歳過ぎ)になるまで引っ張られるには相当な理由が必要だ。これには子供の遊びの“しんよげんの書”が“実際の行動計画”として成人になるまで引っ張られて肥大化・過激化したのと同根のものが感じられる。多分、フクベエは子供の頃から様々なコンプレックスを抱えていて、大人になってまで少年期のコンプレックスを捻じ曲がった形で引き摺ってしまったのだろう。
◎必要な説明:フクベエがキリコに惹かれた理由。
・すると、お姉さんキリコに対する少年フクベエの想いも思春期を通して大人になって時を経るほど肥大化・過激化してキリコを我が物にするために殺人を犯すほど歪んで偏執的な欲望に変化していったのではないか。つまりフクベエは歪んではいるが彼なりにキリコを強く愛したのではないか。それは所謂通常の愛ではなく、キリコと云う女への欲望の上にフクベエが少年の頃に友人達に見せた支配と服従の関係と、それに加えてケンヂに対する競争心や劣等感に起因する憎愛が相俟った感情がケンヂの上位に位置する“ケンヂの姉さん”に向かったのではないか。ケンヂの身代わりとして“ケンヂの姉”を征服・服従させて“所有”し隷属させる、極度に支配的でキリコに屈服と屈辱を強いる冷酷かつサディスティックな愛の形になったのではないか。また、その欲望が激しい分だけキリコに対する執念も極度に強かったのでは無いだろうか。一緒に所帯を持って自分の子供まで産ませてもフクベエはキリコを入籍もさせず、子供も認知しなかったと云う事実もフクベエがケンヂの代用ともいえるキリコを貶めるようなサディスティックな心理に関係しているのでは無いだろうか。しかし注目すべきはそれがフクベエだけの偏執的かつ一方的な愛ではなくてキリコも明らかにフクベエを愛していることだ。支配者と被支配者、サディストとマゾヒストの愛のようなものだろうか。キリコにはマゾヒストの被虐的な嗜好があるのだろうか。他にもキリコが自分の置かれた屈辱的な状況にもかかわらずフクベエを“夫”として愛し続けていると云う事実を鑑みれば、余程フクベエは2人だけの間にのみ通じる、キリコにとってフクベエは余人には無い特別な何等かのフェロモンを持っているに違いない。その2人の異常といえる愛の姿を描くべきだろう。
◎必要な説明:キリコとフクベエは愛し合っていたのか。2人の男女としての関係。
・ただし、フクベエにとって世界はあくまで“しんよげんの書”の中にあるべきものなのでキリコもその一部としての扱いとなるだろう。つまりフクベエの愛の感情は“ともだち”としてのキリコに対する愛の感情だろう。もう一歩進めれば服部哲也という人格は少年から大人になる過程で肥大化する“ともだち”に呑み込まれて“ともだち”の中にのみ存在するようになったのではないか。ただ、何処かに“普通人”の服部哲也の残滓がキリコを“素”で愛した部分もあるのではないか。それがなければキリコもフクベエの子供を産んで“家庭を持つ”ところまでは行かないで、フクベエに恋したとしても愛人としての火遊びで程度で終わっただろう。
◎必要な説明:フクベエがキリコに対して抱いた愛情の有り様。また、キリコはそれに如何に応えたか。

12.家族に秘密を持ったキリコだとしても何故に蒸発と云う形をとったのか?なぜ家族に何も告げることもなく失踪したのか?
矢張り、家族との断絶という疑問3と4と5に本問題も関係している。一連の疑問を明確にすれば色々な疑問が一挙に解決する。この物語のキーとも言えるかも知れない。それに、この一連の問題は根っ子では疑問2にも関係しているので、延いては物語り全体様々の謎に影響する。これこそがストーリーの骨格と言えるだろう。
・キリコの蒸発はフクベエと所帯を持つための駆け落ちが原因とは考えがたい。なぜなら大の大人の2人には駆け落ちをする理由が無い。また、フクベエと恋に落ちただけなら、あるいは所帯を持つためなら家族に秘密にする理由さえ無い(既に40歳過ぎの大人だし)。それが仮に道ならぬ、後ろめたい関係でも秘密にするだけで良い筈だ。蒸発する必要は無い。
・ワクチン開発に専念するための家出とも考えられるが単に研究所勤めなら秘密にする必要は無い。ワクチンの研究なら職業として正当な報酬を貰って働く種類のものだ。
◎必要な説明:キリコが家出した理由。
・“ともだち”に洗脳されてもいないキリコが姿を消す(家を出る)必要があるなら、矢張り医師資格取得したアフリカ“留学”だろう。物語の展開上、アフリカで医師資格を取得しておく必要が有るが、それには留学が必要である。病原体(ウィルスあるいは細菌)研究のためにもアフリカ留学は意義深いものと云える。留学時期は明確にされていないが経済的理由から大学進学を断念して高校卒業後は酒屋の店番(或いは就職?)をしていたキリコに資金が有ったとも思えないので留学はフクベエ(“ともだち”)の援助の下と考えられる。事実、フクベエがキリコを口説く際に、「人間はなりたいものに成れるんだ。今からでも遅くない。あなたの志を眠らせてはいけない」と励ましている。これは、学業・研究の継続(延いては留学)を薦めていると考えるのが妥当だろう。ただ、その後の家出(留学)をなぜに秘密にしなければならなかったのか。それを説明する必要がある。留学に関わる要素で秘密にしたいのは資金源であるフクベエ(との関係)だろう。それが留学そのものまで秘密にして“蒸発”せねばならない理由ではないか。家族にケンヂの同級生に金を出してもらって海外留学をすると言ったら不審に思われるだろう。問い詰められてフクベエとの関係を白状したら、「そんな汚い金での留学はまかりならぬ」と反対され、ケンヂがフクベエに詰め寄って全部が壊れて万事休すになるだろう。ただし、実際は友楼会研究所に勤めて会社から派遣されるという形をとれば“蒸発”などしないで堂々と留学できるが物語の中で“蒸発”が起きた以上それを説明するには矢張り“留学”が最も合理的説明になるだろう。“蒸発”がキリコとフクベエの出逢いから間が無く、“蒸発”以前にキリコが研究活動をしていた様子も無いことから、留学は研究活動に先立って、帰国後に研究に入ったと考える方が合理的だ。
◎必要な説明:1)留学の可能性とその時期とその資金。2)留学が失踪の原因ならそれが蒸発になった理由。
・研究が本来の動機であるキリコにとって、フクベエとの恋はフクベエとキリコの関係の中で副次的(ただしフクベエ側は計画的)に発生したものだろう。ただ、その形が家族には打ち明け難い性質のものであり、従って秘密の関係になったのだろう。フクベエから頼まれただけで秘密にするには妥当な理由がないので、キリコにも秘密にしたい理由があったと考えられるが理由は後ろめたく道ならぬ性質の関係だった可能性が高い。矢張り家族に話しにくい、謂わばケンヂには知られたくない理由の一つに相手の男が“ケンヂの同級生”と云う点は大きい要素だろう。フクベエにとってキリコは“ケンヂの姉”、キリコにとってフクベエは“弟の同級生”と云う事実は偶然と云う以上の意味があるのではないか。ケンヂが“媒体”であることは2人の関係においてキーの一つではないか。40過ぎの姉だから男がケンヂにとって赤の他人なら問題ないだろうが、同級生と異常なほど自分を可愛がってくれた姉がいかがわしい性的関係にあると知ったら弟は当然関係を公に出来る類の綺麗なものにしろと同級生を責めるだろう。特に、仮にキリコが愛人の立場でフクベエに研究や留学まで援助して貰うとなると彼女の立場はパトロンの世話になる“妾”に限りなく近くなる。ケンヂとしては姉の将来も心配だし、その屈辱に耐えられないだろう。そしてケンヂがでしゃばればフクベエとキリコの仲は壊れ、キリコは研究の夢と恋人を同時に失うことになる。キリコはそれを望まないだろう。
◎必要な説明:失踪という形をとらなければならなかったキリコの心境。
・前述の如くキリコが色々と家族に言い出し難い秘密を抱えていただろうと云うことは類推できるが、面と向かって話せないにせよ、細かい話はできないにしろ、普通なら「やり遂げたい夢があるので当分留守にするが心配するな」と云う事と侘びの言葉ぐらいはせめて置手紙で伝えるだろう。要するに事後通告だ。これなら秘密は守れるし反対される怖れもないし、行方不明に関わる後々のトラブルも避けられよう。あれだけ聡明で家族思いのキリコなら家族のためにそれぐらいはしない筈がない。フクベエ側としても失踪者として捜索願を出されるより、自分の存在さえ秘密のままなら、この方が好ましいだろう。それに加えてフクベエとしてはキリコに“ともだち”の存在を隠しておきたいから強引に蒸発させてキリコに疑念を持たれるような事は避けるだろうし、家族側でも騒ぎにならないように、最低限の消息だけはキリコと家族の間で取らせる方が無難で賢明ではないか。原作では無理やり読者の興味を惹く為にミステリアスなイベントを悪戯に挿入する(しかも遣りっ放し)ので化学調味料だけで味付けをした料理のような不自然さに満ちている。どうしても物語の無理に派手派手しい進行に違和感を覚えてしまう。手間は掛かるかもしれないがもう少し地に足の着いたストーリー・テリングにして欲しいものだ。兎に角“蒸発”という設定は止めた方が良いだろう。
◎必要な説明:キリコが置手紙や事後報告の形さえとらずに完全に蒸発した合理的な理由。

13.高卒の筈のキリコが突然に脈路も無くアフリカで医師の資格を取った(実際に医師資格を持っている表現は無いが、鳴浜の廃墟でカンナが見たキリコのガインデ大学病院レジデント終了証が有るので医師であったと推測できる)ことになっているがあまりに唐突だ。
・実際、留学(明記されて無いが絶対必要)と医師資格取得時期は明確にされてないが、費用負担が出来なくて大学進学を諦め、その後も就職した気配のない、仮に就職しても高卒(普通科?)の給料で、キリコが費用を捻出できたとは考えがたい。それに店を手伝わずに就職するぐらいなら後日に“店の手伝い”を理由に恋人の諸星のプロポーズを拒否するのは合理性が無いので矢張り就職したとは考え難い。何れにせよ当人に財力が無い以上は外国での医師資格取得とそれに先立つ留学に誰かの援助が不可欠だがキリコが関係する人物でそのような経済力を持つ者はフクベエ(“ともだち”)以外に見当たらない。矢張りフクベエの援助抜きでは無理だろうからその時期はフクベエと親しくなった(諸星殺害直後)以降と考えるべきだろう。それにもし、その前から医師資格を持っているなら日本での資格も取得して酒屋で店番なんかするわけもないし、フクベエに引っ掛かるほど暇でも無いだろう。
◎必要な説明:キリコの医師資格取得に関わる資金源と取得時期の合理的説明。
・キリコは高卒の学力と学歴でどうやって、いくらアフリカと云え、医師資格を取得可能か。しかも資格取得時期がフクベエとの出会いの後とすれば、キリコの彼氏諸星が“ともだち”に殺害され、フクベエに口説かれ、留学、医師資格取得、鳴浜でワクチン研究&出血熱アウトブレーク阻止まで1年間位しかない。=>絶対不可能=>更に外国で留学・医師資格取得をするのだから高い語学力も必要だ。しかもストーリー展開から言って優秀な医師としての実力も付けている必要もあるので“資格を買うだけ”は不可で、前提として実際に医学部に留学・卒業の必要が有る。更にもう一つ、キリコが高卒だとすると40歳を超えての留学までに20年以上のブランクがあるが今更勉強をする気力も学力も失せているだろう。行き当たりばったりに物語を展開してきて、遅まきながら気が付いたストーリーの破綻を“アフリカでレジデント終了”と云う一言で蓋をしてしまうという恐ろしいほどの好い加減さに作者が自分の作品も読者も大切にしていないことが伝わってくる。自分の作品も読者も単なる“金のなる木”なのだろうか。暗澹たる気持ちになる。やる気さえあればフラッシュバックと云う遣り方で過去に遡って修正も図れたと思うが・・・作者にとっては売れれば後はどうでも良いことなのだろう。
◎必要な説明:キリコの医師資格取得までの合理的経緯。

14.アフリカでの出血熱発生とキリコのアフリカでの医師資格取得の関係がはっきりしない。
・無関係とは云えないだろう。フクベエが出血熱の存在を知り、ヤマネに病原体(ウィルス或いは細菌)を研究させ、それに対するワクチン開発に利用して“聖母”とするために微生物学を専門とするキリコを従属させた上、研究させるために留学させた。医師資格取得はその延長線上にあると考えるのが妥当である。この設定なら“聖母”+“運命の子”の母=キリコの妥当性が高まる。それにしても読者に大まかなキーワードだけ与えて、矛盾はそのままに、辻褄あわせを読者の想像に任せて済まして逃げる場合が多すぎる。ここいら辺が物語を中途半端にしている理由だろう。逆に、読者としては謎が多く想像力が刺激される、あるいは好きに想像できる(プラモみたいな半完成品)ので、この物語に嵌る人が多い理由かもしれない。ただ、矛盾と不整合があまりに大きいので想像のレベルでは補完できず、妄想レベルが必要だ。
◎必要な説明:キリコのアフリカ留学と出血熱研究の関係。

15.キリコは微生物学を何処で学んだのか=>高校の生物に毛の生えた程度ではウィルス(或いは細菌)研究もワクチン開発も無理だろう。
・キリコは矢張り高卒でなく、当初の希望通り国大で微生物学を履修する方が物語に無理が無い。少なくとも院卒だろう。でも何でわざわざ受験に失敗した事にしたんだろう、手軽に目先の刺激が欲しかったのだろうが、無用な悪戯でストーリーを台無しにしている。
◎必要な説明:矛盾に満ちたキリコの学歴の整理。

16.兎に角、キリコの時間軸に無理がある。特に1994年から1995年に大事件と大仕事が集中しすぎて何がなんだか解らない。
・40歳を超える“行かず後家”で高卒のキリコが酒屋の店先で打ち水をしていたかと思うと、男を作って蒸発して、翌年には医師として研究所で未知の病原体を研究したり、伝染病のアウトブレークを抑え込んだりしている。
◎必要な説明:支離滅裂な時間軸の組み直し。

17.複数の人格が混乱するキリコ
キリコの人格は完全に崩壊している。もう支離滅裂。2・3人分の人格を背負い込んでいる。
・弟を異常なほど溺愛し犠牲になるブラコン姉キリコ
・高卒の苦労人で男を近づけないキリコ
・簡単に年の離れた弟の存在感も無い同級生の愛人になって、一言も無く家を逃げ出して、同棲し、私生児を産む奔放すぎる女のキリコ
・危険な病原体開発に加担し、15万人の人命を奪った微生物オタクのキリコ
・献身的に人のために尽くす聖人キリコ
以上が混在している。ただ、そう云う物語になってしまっているのでこの分裂した人格を一つに纏める理由付けをしなければならない。
◎必要な説明:支離滅裂なキリコの行動の合理的理由付け。

18.1995年に鳴浜で出血熱が発生し、キリコの活躍でアウト・ブレークを阻止した事になっているがこれは無理すぎるだろう。
・致死性で日本に無い筈の伝染病が発生したとすれば厚生労働省はおろかWHOまで出て来て徹底的に調査をするはずだし、日本中の目が鳴浜と正体不明の医療施設に向かい、研究所に調査が入るはずだ。本当に作者は何を考えているのか。“花火で火遊び”が目に余る。
◎必要な説明:鳴浜での出血熱発生に関する考察。
・そのようなことは無かった事にした方が良いだろう。どうせ元々ストーリー展開に無用なものだし、単なる雰囲気作りの小道具に過ぎない。何か必要なエピソードは全部手抜きして、雰囲気作りの小道具だけを並べて、本体が無いという感じだ。
◎必要な説明:鳴浜の出血熱発生のエピソードの扱い。

19.フクベエから逃亡後のキリコの所在・行動・生活は?
・キリコはフクベエの前から逃げてケンヂと母チヨにカンナを託してから姿を消して、以降どうやって生活していたのだろうか。更に、アメリカやヨーロッパでワクチンを打って歩くまでの行動が全く謎だ。
◎必要な説明:母とケンヂにカンナを託した後のキリコの行動に関する考察。

20.カンナの超能力の源泉
・カンナが超能力を有する理由に関して、「キリコの妊娠中に秘薬を投与したことで、自分の力がカンナに遺伝した」と云う意味のことを“ともだち”2号が呟いている記述が原作中にあるが、後にも先にもその一文のみで、その秘薬の由来や効果、どのような物かなどの説明も投与時の描写も無いので本当にそのような秘薬が存在したのか、存在したとしても本当に投与されたのか、投与しても本当に効果があったのかも疑わしい。医師であるキリコがその様な正体不明の投薬に気付かなかったのかも疑問だ。それに、もしその様な薬剤が存在するなら、他の女達にも自分の子供を沢山産ませて自分の分身で“超能力者軍団”ぐらい作らなければ理屈に合わない。以上カンナの超能力の説明としては弱すぎて「これ」と云える明確な答えが無い。
更に、これには一寸した矛盾もある。“秘薬発言”は“ともだち”2号(カツマタ)からのものであり、「キリコの妊娠中に秘薬を投与したことで、自分の力がカンナに遺伝した」と云う趣旨だが、上記の「原作と映画の主な違いの1の“ともだち”の正体はフクベエとカツマタの2人」で前述したように西暦2015年まで生存を確認されている、従ってカンナの父親である“ともだち”1号はフクベエ以外に考えられないのでカツマタの力(超能力)がカンナに遺伝する事はありえない。だから、“秘薬”の件はカツマタ(“ともだち”2号)の単なる妄想と結論付けるべきだ。これは単に原作者が途中からの思いつきで“ともだち”の正体をカツマタに切り替えようと試みた為の細工の中の一つだろうが失敗して物語の破綻を招いていると云うことだろう。原作者が行き当たりばったりでストーリーを書いて来たので最後の最後まで“ともだち”の正体とカツマタの扱いを決められなかったと云う証だろう。随分と好い加減な読者を馬鹿にした話である。これだからテレビで「“ともだち”の正体は重要で無い」と言って誤魔化さざるを得なくなったのだろう。
・読者の間で、カンナが超能力を持つ事実から、その父親と言われるフクベエあるいはカツマタが超能力を有した証拠になるとの主張も出るぐらい曖昧で簡潔すぎる描写である。多分後で都合に合わせて幾らでも話を変えられるように意図的に曖昧にしてあるのだろうが前述のようにボロが出てしまうのは曖昧さも誤魔化せる程度を超えていると言う事だろう。暗示という意味なら曖昧さも許容できるがその場合は裏に到達可能な合理的かつ明確な本当の姿がなければならない。裏に本物があってこその暗示である。全てをこの様に中途半端に逃げておいて、最後には放置したから大風呂敷とか伏線の回収が無いと評される事になっているし、読者の間でも“ともだち”の正体=フクベエ説、カツマタ説、その両人が並行説やカンナの父親=フクベエ説、カツマタ説、酷いのになると両人がキリコを共有説(だから父親はどちらか分からない)まで飛び出す混乱を極めた状態になるのだろう。マ、作者当人も分かっていないようなのでどうしようもないが・・・
・しかし、既に物語の中でカンナがある種の超能力を有する事は“事実”として描かれているので否定は出来ない。どうせ超能力と言う有り得ない設定と云えども、秘薬のような唐突で都合の良すぎる設定は排して、明確に「これだ」と云える前後の経緯を有する答えを出す必要が有るだろう。矢張り遺伝か突然変異の方が秘薬よりはSFの正道と言えるだろう。
◎必要な説明:カンナの超能力の源泉の明確な説明。


もう一つの最終章へ
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