もう一つの最終章


=序=


 キリコはある程度以上に魅力的と思えながらも40歳過ぎまで独身を通して、恋人のプロポーズまで却下したぐらい男に欲の無い女性なのに、その却下したモトカレが“事故死”した直後に、ポッと出てきた怪しげで、同窓会でもカツマタだか死んだ筈のフクベエだかも判らない様な影の薄い人物に恋をして、少なくとも1年近く交際して(カンナ出産後の見舞いはしているとのこと)、入籍もせずに、なおかつ名前も良く分からない男の、私生児まで産むと云うのはあまりに合理性が無いです。既に自分で“振った”モトカレが“事故死”したショックだけでそうなったというのは理由として甘すぎますが、“そう云う設定”だからしょうがないとして受け入れると「もう一つの”最終章”」が浮かび上がってきます。
 浦沢さんは狡いから、起承転結の、起だけで煽るだけ煽っておいて尻切れトンボに放置したり、起から経緯を抜かして唐突に結に飛んだり、始まりもそれまでの経緯も無くて「こんな事です」みたいな結だけを押し付けてきたりするので、私は意地でも起承転結を守ってみたいと思います。浦沢さんのキーワードは“どうとでも逃げられる種を出来るだけたくさん蒔いて置く”と“経緯が無い”です。「なんだか訳の分からない放棄した伏線」と「こう云う事なんですの強引な結果」ばかりで「中身はこうなってます」の部分が欠落しているのです。要するに誤魔化し放題な代わりに物語になっていないという事です。
 因みに拙文をエンド(遠藤)ロールが終わるまで読んで頂くよう御願いします。


=起 is the key=

  一時はかなり良い線まで付き合いが進んでいた諸星の突然の死で落ち込んでいたキリコだが、キリコの母チヨはキリコが最近なぜか華やいで、店が閉まるとめかしこんでイソイソと出かけることが気に掛かっている。チヨは娘に、「キリコどうしたの?ここんところお店が終わるとおめかししてチョイチョイ出かけるけど何なの?お母さんに言えないような事なの?」と訊いてみたが、娘は嬉しそうに「友達と食事や映画に行くだけよ」との答えを返すばかりだ。が、言外に高揚したウキウキ感があからさまに伝わってくる。
 更に日を重ねる内に、キリコは何かと理由をつけては昼も家を空けるようになりはじめて酒屋の切り盛りに影響も出るようになってきた。業を煮やしたチヨは、「キリコももっと店番してよ!お店空ける時にはちゃんと言ってくれなきゃ。大体、お店が大変だからって諸星さんのお話を断わったんじゃないの。じゃなくても、こんな事なら大学で先生してくれてた方が良かったよ」と言葉を荒げる事もしばしばだった。


=承 time now!=

 だがあまり日を置かずに、キリコの方も付き合いが順調に進んで、機も熟してきたと判断した新しい恋人との交際を母親に打ち明けた。
「イケガミさんっていう人とチョット前からお付き合いしてるの。うん、諸星さんが亡くなって私も落ち込んでいたじゃない。丁度その時ぐらいにお買い物に行った時に商店街で偶然知り合って、5・6歳年下で地味で目立たない人なんだけどとっても頼もしくて励まされるわ。それに凄く優しくしてくれるの」と少女のようにハニカミながら打ち明ける様子にチヨは「ハハ〜ン、これは本物だな」と胸の内で呟いた。
 それからと云うものは堂々と「お母さん、イケガミさんとサンフランシスコでお茶してくる、チョットお店空けるから御願い」とか「今日はイケガミさんと食事するから晩御飯は良いわ」あるいは「お母さん御免、今度の日曜日にイケガミさんとデートするからお店番お願い!」と幸せモードまっしぐらに邁進していくキリコだった。



=転g....=


 しかし、その様な日々の中、大きな転換期が訪れた。ある日キリコは母に、「お母さん、お店が大変なのは分かっているけど、私イケガミさんの関係でもう一度研究に戻りたいの。申し訳ないけど許して。それで来月には静岡県の鳴浜という所に引っ越すけど当面の住所はここ、連絡先はこの友楼会鳴浜研究所になるから」と申し出た。しかしチヨは気が気ではなかった、「キリコォ、大丈夫なの?イケガミさんってお母さん未だ良く知らないんだけど、本当にどんな人なの?お仕事は?一度会わせてよ。相手のお家はどんな御家庭なの?」と気を揉んだが、新しい恋人ともう一度得た研究の機会に有頂天のキリコは母の心配をよそに、「大丈夫よォ、研究するだけなんだから」と意にも介さなかった。それでも時々は実家に電話を入れるキリコにチヨは、「イケガミさんと仲良くやってる?幸せ?結婚は未だなの?」とか、久々に帰宅したキリコに「一度イケガミさんを連れてきなさいよ、私だって御目にかかりたいし、ケンヂだって義兄さんになるかもしれない人に引き合わせとかなきゃ」とかしきりに心配をしていたが、「イケガミさんがなかなか忙しくて時間が・・・」、「彼の都合が・・・今度連れて来るね」と延び延びになっていたが・・・
 その内に母の言葉も、「キリコォ!妊娠したんでしょ!早く入籍しなさいよォ!」と言う焦りを含む内容になって来ていた。
 そしてついにある日、「母さん!イケガミが子供を認知してくれないのよォ!どうしよぉ〜〜!」と云う涙声が電話口から流れてきた。


=結ッツゥウ〜=

 それから間もなく相談のために実家に帰った姉をケンヂは問い詰めた。ケンヂは、「そのイケガミって太てえ野郎は実際どんな奴なんだ?エ!何ィィ!?この辺の奴で俺と同い年ぐらいで下の名前が正人だぁ?そいつぁ小学校で一緒の・・・」と血相を変えて家を飛び出したが、本物の池上正人の家に押しかけて一悶着の末、「え!?知らない?お前じゃないの?」とようやく異変を感じて急いで帰宅したケンヂは、「オイ姉ちゃん、池上ンとこ行って来たけど何も知らねぇってよ!女房子供も居たし嘘じゃなさそうだ、その訳の分かんねぇヤローは今何処に住んでるんだ?」となって、遠藤家は上を下への大騒ぎの末に、最終的にキリコががケンヂを案内して偽池上(カツマタ)の所に乗り込んで、「姉ちゃん!こいつ池上なんかじゃねぇぞ!カツマタってんだ、どうなってるんだ!」、キリコは半狂乱状態で、「えぇ〜!嘘でしょ!アンタ!ちゃんと説明してよォ!カンナのパパは誰なのヨォ〜!」と美貌を絶望にゆがめ、華奢な腕でカツマタに掴みかかって修羅場を呈した。カツマタはキリコの剣幕に気おされて女の細腕に首根っこを掴まれてグラグラと力なく揺さ振られるだけだ。ケンヂは怒りで頭の中が真っ白になりながら、「カツマタァてめぇ〜池上を騙って俺の姉貴を玩具にしやがって、クヌヤローふざけやがって」となって全てがぶち壊しになった。 勿論カツマタはケンヂにボコボコにされ、チヨの目の前に引きずり出されて家族会議の挙句、結局はケンヂに恐妻家で地味ぃ〜な義兄ができることになった。特に取り柄も無い彼は姉さん女房のケツに敷かれる酒屋の主人として女房の実家で地味に生涯を過ごすことになり、ケンヂは姉夫婦が店を継ぐことになったので自由気ままなロッカーの道を突き進んだ。独創的すぎて日本では理解されなかった彼のサウンドもヨーロッパ、アメリカでは日本のトップ・ロッカーとしてその無軌道で自由奔放、クレージーでセクシーなサウンドで大爆発し、ツアーも大成功をおさめて凱旋した。アルバムは往年のビートルズを凌駕して次々とミリオンセラーになるわで、遠藤家の誇りとなり、酒屋の売り上げにも大いに貢献して、ケンヂサウンド発祥の酒屋はそのままの形でロックの聖地サウンド・ファクトリー・エンドウサケテンとして残されたが、酒屋は他に立派な持ちビルの(株)ラヴィアンローズ・エンドウを持つに至った。


=“遠藤”ロール=


 あの騒ぎの後キリコとカツマタが所帯を持って間もないある日、本当に久し振りに同窓会が開かれてケンヂの大人しいばかりが取り柄の義兄は恥ずかしそうにハニカミながら片隅で酒をすすりつつ・・・「オゥ!お前ケンヂの兄さんだって?良いなぁ、キリコさんの亭主かよォ、この前なんか酒の注文で電話かけたら“主人が”なんて言ってたぜ、キリコさんの御主人様かヨォ〜、キショ〜俺もキリコさん好きだったんだよゥ〜〜キリコさんモウ最高!、でも、アン時きゃあ吃驚したぜ〜いきなりケンヂが血相変えて怒鳴り込んできて、嬶ぁにゃ痛くもねぇ腹探られるしヨォ、ンニャ良いんだよモウ、気にスンナ!済んだ話でウジウジすんなってモウ、面倒くせえな!でもよう、でもホントだったら悪くねぇよナァ、出来るモンならあのまんま入れ替わりたかったなぁ、ナンつったってキリコさんだぜぇオイ、え!?キリコって、おまえ呼び捨てかよォ、ま、オカミサンなら当たり前か、俺も一度やってみたいなぁ〜、おい、キリコ、なんちゃって、タマンネェナ夢に見そうだぜ、チキショウ〜、横からケロヨンが池上ヨダレ・ヨダレと茶々を入れつつ続けて、ホント美味(うま)い思いしやがってヨォ、羨ましいぜマッタク、でも言っちゃ悪いけど、よくお前にあの難攻不落のキリコさん口説き落とせたなぁ、世界七不思議だぜぇッタク、見ろよ、ヤマネなんかナァすっかり落ち込んじまって、あいつ学校で飼ってた魚をキリコって呼んでたくらいなんだぜ、キリコさんが結婚しなかったもんだから自分もズーっと独り者だったんだ、ま、これでアイツも前へ進めるだろう、おまえ結局良い事してやったんだぜ、と横からマルオが、オゥ!飲めよカツマタ・・・じゃなくて今じゃ遠藤だったな!ケンヂもお前のこと褒めてたぜ、子煩悩だし、お袋さんも姉さんも大切にする良い兄貴だって」・・・とか皆に囲まれて酒の肴にされつつも、他人(ひと)も羨む妻に愛され、賑やかな家庭に恵まれ、遅まきながら友人も出来て、これ以上求むべくも無い満ち足りた人生に安らぎと幸せを噛み締めるばかりだった・・・今度諸星さんのお墓にお詫びに行こう・・・。こうして世界はキリコの愛とケンヂの単純さに救われたのだった。めでたしめでたし。ジャンジャカ〜、ジャンジャカ〜♪グータララ、スーダララ・・・は止めて・・・♪I see my light come shining, from the west unto the east. Any day now, any way now, I shall be released....Any day now, any way now, I shall be ....released...♪


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